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甲府地方裁判所 昭和52年(ワ)119号 判決 1980年2月27日

原告 小嶋武

被告 山梨貸切自動車株式会社 外一名

主文

一  原告が被告山梨貸切自動車株式会社の従業員たる地位にあることを確認する。

二  原告が被告山梨貸切自動車労働組合の組合員たる資格を有することを確認する。

三  被告山梨貸切自動車株式会社は原告に対し金五五七万八六四八円及び昭和五四年一月以降毎月二九日限り金一七万三二三三円を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は三項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (一) 被告山梨貸切自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、山梨県内に営業所一〇か所、営業車両一一〇台、従業員二七〇名を擁し、自動車旅客貸切並びに貨物運送を業としている。

(二) 被告山梨貸切自動車労働組合(以下「被告組合」という。)は、被告会社の従業員で構成する労働組合であり、法人格なき社団である。

(三) 原告は、昭和三九年一二月、タクシー乗務員として期限の定めなく被告会社に雇用され、また、昭和四〇年三月に被告組合に加入した。

2  被告組合は、昭和五一年七月一五日開催の被告組合臨時大会において、原告を被告組合から除名する旨の決議(以下「第一次除名処分」という。)をし、同月一六日、文書でその旨を原告に通知し、以後原告を被告組合の組合員として取扱わず、また、被告会社は、同月二〇日、原告を解雇する旨の意思表示をし(以下、「第一次解雇」という。)、右意思表示は同月二三日原告に到達し、以後原告を被告会社の従業員として取扱わない。

更に、被告組合は、昭和五一年八月二六日開催の被告組合臨時大会において、再び原告に対し除名処分(以下「第二次除名処分」という。)をなし、また、被告会社は、同年九月一四日原告に到達の書面により原告を再解雇(以下「第二次解雇」という。)するとしてその旨の意思表示をした。

3  原告の受けとるべき賃金及び夏期、冬期一時金等は別紙記載のとおりであつて、その合計額は金五五七万八六四八円であり、また、昭和五四年一月以降の賃金は毎月二九日を支払期日として一七万三二三三円である。

4  よつて、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載のとおりの地位の確認並びに賃金及び一時金等の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告組合

(一) 請求原因1(一)、(二)及び2の各事実は認める。

(二) 同1(三)の事実のうち原告が昭和四〇年三月被告組合に加入したことは認めるが、その余の事実は不知。

2  被告会社

(一) 請求原因(一)、(三)、2の各事実は認める。

(二) 同3の主張は争う。

三  被告らの主張

被告組合

1  第一次除名処分について

(一) 被告組合は、昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会において、原告の左記に述べる行為が組合規約五二条(五項目中四号を除くその余の四項目に該当するという理由で原告を除名する旨の決議をし、同被告は翌一六日原告に対しその旨の通知をした。

(二) 除名理由

(1) 歩合保障の二重取り

原告は、昭和四六年九月から昭和五〇年九月までの間、被告組合執行委員長としてその間、被告組合から乗務員出身の執行委員に対する歩合保障として月額金一万円の金員の支払いを受けながら、更に公傷による被告会社欠勤中の昭和四六年一二月三〇日から翌四七年一月一七日までの間、同年一二月二五日から翌四八年五月二二日までの間及び同年八月二七日から翌四九年八月二〇日までの間のそれぞれにわたつて被告組合に秘して被告会社から同じように歩合保障として月額一万円の割合による金員の支払を受けたものである。

(2) 歩合保障制度の意義と性格

被告組合における歩合保障制度とは、乗務員出身の組合執行委員が組合活動に専念できるようにするため設けられた制度である。すなわち、乗務員出身の組合執行委員が組合事務に従事すると、乗務を前提として会社から支給される歩合給が減少するので、これを補い、もつて、組合活動が停滞に陥らないようにするため、月額一万円を右執行委員に支払う制度であつて、昭和四六年九月の組合大会において創設されたものであり、組合の団結の維持・強化に資するものである。なお、この制度の内容は、昭和四九年九月の第二四回組合大会において補填額が増額され、平均歩合給との差額を歩合保障することに改められたが、これによつて従前の歩合保障制度の性格が変わつたわけではない。

(3) 被告会社から支給される月額一万円の性格

(イ) 公傷欠勤中の被告会社の賃金補償は、労働協約八二条により過去三か月の平均賃金によるとされていた。しかし、原告の平均賃金は固定給を下廻る状態にあつた。そこで、被告組合の当時の副委員長であつた小沢政秋及び書記次長であつた角田英昭は、原告と相談のうえ、昭和四七年一月七日、被告会社の総務部長三井広人及び総務課長日本と原告の公傷による欠勤中の賃金補償について話し合つた。その際、小沢らは、公傷による欠勤中は、原告は組合から支給されている専従手当、役員手当及び月額一万円の歩合保障が貰えなくなるので、完全勤務した場合に支給される賃金に上乗せして歩合保障分として月額一万円の割合による金員を支給するよう要求し、被告会社もこれを受け入れて昭和四六年一二月二九日の交通事故による公傷につき、歩合給として月額一万円の一六日分相当額が原告に支給された。

この点は原告の昭和四七年一二月二四日の交通事故による公傷欠勤の場合、昭和四八年九月の再発による欠勤の際のいずれの場合も同様であつて、被告会社は原告に対し、固定給に上乗せした歩合給として合計一七万円を支給した。

(ロ) 以上のことからして、被告会社から支給されることとなつた歩合給一万円は、組合の歩合保障に代るもので性格的に同性質のものである。

(三) 除名処分の正当性

原告の歩合保障の二重取りは、組合役員として組合に対する重大な背信行為であつて、組合規約五二条(但し同条の四号を除く)に該当し、同規約五三条所定の「除名」に価するものである。

(四) 第一次除名手続とその正当性

(1) 被告組合は、昭和五一年六月二四日開催の中央執行委員会において、同年六月二九日に臨時組合大会を開催することとした。もつとも、右中央執行委員会に出席したのは執行委員九名のうち五名だけであつたが、欠席した執行委員中三名については委任を受けていたので、組合規約二九条所定の定足数に欠けるところはなかつた。

(2) 被告組合は、昭和五一年六月二九日、臨時組合大会を開き、査問委員会の設置を議決した。なお、前記執行委員会の決定が、仮に定足数の点で瑕疵があるとしても、その瑕疵は、正当な招集権者の招集に基づく組合大会の議決を無効とするほどの重大なものとはいえない。それに、右組合大会において定足数に関する瑕疵の点については、原告はもとより他の代議員らから何らの指摘もなされていないことからして右瑕疵は治癒されたものというべきである。

(3) 査問委員会手続

被告組合は、昭和五一年七月一〇日組合規約五四条に基づいて査問委員会を開き、席上、原告に対し前記歩合保障二重取り問題について事実の確認を行なうとともに、原告に対し弁明の機会を与えたが、原告からなんらの弁明もなかつた。

(4) 被告組合は、昭和五一年七月一〇日に開かれた執行委員会において決定された同月一五日開催の臨時組合大会において、出席組合員の圧倒的多数をもつて歩合保障二重取り問題を理由として原告を被告組合から除名する旨の議決をした。なお、右決議は、起立採決の方式によつたが、これは、組合規約五四条の定める無記名投票によるべく投票用紙を準備していたところ、代議員から起立採決方式によるべきであるとの動議が出されたことによるものである。採決方式については労働組合法上必ずしも無記名投票によるべきものとされておらず、それは組合自治に委ねられている事柄であり、起立採決によつたことで除名処分が当然に無効となるものではない。

よつて、第一次除名処分の手続は適正になされたものである。

2  第二次除名処分について

(一) 被告組合は、第一次除名処分についての起立採決方式が違法であることを仮定し、昭和五一年八月二六日開催の臨時組合大会において、原告を除名する旨の決議をした。

(二) 除名理由

除名理由としては、前記「歩合保障の二重取り」のほか、左記の事由が付加された。

(1) いわゆる「地連財政問題」

(イ) 全自交労連中央執行委員会(札幌)の件

原告は、全国自動車交通労働組合連合会(以下「全自交労連」という。)中央執行委員として昭和四八年六月二二日から二四日までの間、札幌市で開かれた中央執行委員会に参加したが、その際全自交労連本部から交通費金二万四四〇〇円の支給を受けたにもかかわらず、山梨地連には本部から一万七〇二〇円の支給しか受けていない旨偽りの報告をし、よつて、同地連からその差額金七三八〇円を不正受給した。

(ロ) 全自交労連熱海交研集会の件

原告は、昭和四八年七月一七日から二〇日までの間、静岡県熱海市で開かれた全自交労連交研集会に参加したが、全自交労連本部より交通費として金五〇四〇円を受給しながら、山梨地連に対し右事実を秘匿して、交通費は支給されなかつた旨虚偽の申告を行ない、交通費として金六〇〇〇円の支給を受け、よつて、右金六〇〇〇円のうち金五〇四〇円を不正に受給した。

(ハ) 全自交労連三〇回大会(山形県上の山市)の件

原告は、昭和四九年一一月一二日から一四日までの間山形県上の山市で開かれた全自交労連三〇回大会に参加した際、同労連本部より宿泊費(三泊分金一万二〇〇〇円)・交通費・食事代合計金二万三九〇〇円を受領しながら、山梨地連に対し不正に宿泊代二日分金八〇〇〇円を請求し、これを受領した。また、架空の国際企業連交流会費金九〇〇〇円を山梨地連から不正受給した。

(ニ) 全自交労連北関東ブロツク会議(千葉県白浜)の件

原告は、昭和五〇年一月一六、一七日に千葉県の白浜で開かれた全自交労連北関東ブロツク会議に他の組合員三名と共に出席したが、宿泊費、交流会費等の費用が一人あたり金九〇〇〇円であつたところ、山梨地連に対して金一万一〇〇〇円であつた旨虚偽の報告をし、同地連から一人あたり金一万一〇〇〇円の支払いを受け、その差額を不正に受給した。

(2) 前記地連財政問題と被告組合の除名事由との関係

地連財政問題は、地連資金の不正受給であるが、このような不祥事は当時山梨地連執行委員長であつた原告の出身母体である被告組合に対する信頼を傷つけるばかりでなく、ひいては地連財政の多くを負担する被告組合の財政にも影響を与える行為で、地連資金の不正受給は被告組合の統制事由となる。

(3) その他の除名事由

(イ) 組合員木川に対する暴行

原告は、組合員木川に対し、同人の首に火のついたタバコをねじ込む暴行を加えた。

(ロ) 組合員石川、同渡部及び同手塚に対する暴行等

原告は、昭和四八年八月ころ、組合員石川、同渡部及び同手塚に対し暴行を加えたうえ、「お前等二人や三人首にすることは訳はない」などと言つて脅迫した。

(ハ) 組合員土橋に対する脅迫

原告は、被告会社に入社して間もないころ、土橋に対して脅迫を加えた。

(ニ) 組合員渡辺昭治に対する脅迫的言動

原告は、委員長在任中、組合員渡辺昭治を除名するに至つた過程において同人に対し脅迫的言動を加えた。

(ホ) 石田委員長引きずり落とし行為

原告は、執行委員当時、組合三役の地位に着くため当時執行委員長であつた石田をその地位から引きずり落すための策謀を行い、組合組織内部に大混乱を生じさせた。

(ヘ) 小尾・清水に対する三年間役員選挙に立候補しない旨の文書提出の強要

原告は、執行委員長在任当時、小尾副委員長、清水書記長の解雇反対闘争の過程において、右両名に対し、委員長の立場を悪用し、三年間役員選挙に立候補しない旨の約束書を提出するように強要した。

(ト) 原告は、前記渡部昭治除名問題の際、同人に同情した組合員に対し、査問委員会にかけると言つて脅迫した。

(チ) 原告は、「七六年春闘」の際、明公集会において、組合四役を誹謗する発言を行つた。

(リ) 組合役員の任期に関する規約改正後の委員長職居坐り

原告が、執行委員長当時、組合は、組合選挙規定一八条を改正して、組合役員の任期を一年から二年としたが、原告は、任期二年制は次の選挙で選ばれた者から適用されるべきであるとの組合員の意見を無視して委員長職に居坐つた。

(三) 除名処分の正当性

原告の歩合保障二重取りが組合役員として重大な背信行為であること前記のとおりであるうえ、「地連財政問題」は虚偽申告等により金銭を詐取し、組合財政にも具体的損害を与えたものであり、また、暴力行為や脅迫的言動、あるいは非民主的、独善的組合運営は、組合の団結維持を妨げるものであつて、本件除名処分は統制権の行使として正当である。

(四) 第二次除名手続とその正当性

(1) 被告組合は、前記のとおり、昭和五一年八月二六日開催の臨時組合大会において、再度、原告を、除名する旨の決議をしたが、これは、原告が第一次除名処分について前記起立採決方式の違法を主張して、甲府地方裁判所に地位保全の仮処分を申請(同庁昭和五一年(ヨ)第一四八号)したので、念のため組合規約所定の採決方式である無記名投票の手続を履践したものである。すなわち、第二次除名処分は、第一次除名決議において示された組合の統制意思(二重取り問題が実体的に統制処分の理由となること、選択さるべき統制手段の種類は除名処分であること)を組合規約所定の決議方式である無記名投票によることとして手続的にこれを再確認するところにあつた。

(2) 従つて、第二次除名手続上二重取り問題につき改めて査問委員会の査問に付されなかつたとしても、すでに、この問題については第一次除名処分の際に査問委員会の査問を経ているから改めて原告に弁明の機会を付与する実質的理由はない。

また、第二次除名処分において新たに付加された除名理由である、いわゆる地連財政問題その他については査問委員会での査問手続を経てはいないが、これは、第一次除名処分以後第二次除名処分までの間に判明した不正事実をも付加すべきであるとの考えに基づいて、無記名投票による議決手続を行う機会に付加されたに過ぎない、換言すれば、原告に対する除名意思は、第一次除名処分の時点において、二重取り問題を主眼に確定的に形成されていたのであつて、右の新たな事実の付加の有無は、第二次除名手続における組合の除名意思形成に消長を及ぼすものではない。従つて、右付加理由について査問手続を経なかつたことをもつて、第二次除名処分手続に瑕疵があるとはいえないし、そうでないとしても、除名処分を無効とするほどの重大な瑕疵ではない。

(3) 仮に、付加された理由について、弁明の機会を原告に与えたとしても、当時の状況からして全く無意味であつたし、また、被告組合は、原告に対し、八月二六日開催の臨時組合大会について、事前に電報及び郵便等で通知してあるので、原告は、右大会において弁明することができたのであるから前記瑕疵は治癒されたものというべきである。

よつて、第二次除名手続は適正になされたものである。

被告会社

1  解雇理由

(一) ユニオン・シヨツプ協定の存在

被告会社と被告組合との労働協約四条にはユニオン・シヨツプ協定があつて、これによれば、被告会社は、被告組合がその組合員を除名したときは、被除名者を解雇すべきものとされている。被告会社は、被告組合が右労働協約に基づいて原告を解雇するよう求めてきたので、昭和五一年九月一四日原告到達の書面をもつて原告に対し解雇の意思表示をしたのである(なお、昭和五一年七月二〇日付をもつてなした解雇は同年九月一日付をもつて取消した。)。

(二) 原告の被告組合からの除名が正当であることに関する被告会社の主張は、この点に関する被告組合の主張と同じである。

(三) 仮に、被告組合が行なつた除名処分が何らかの理由で無効であつたとしても、被告会社のした第二次解雇は有効である。

(1) 被告会社は、原告に対し原告の昭和四六年一二月二九日の交通事故による受傷につき、歩合給として金六一五三円(月一万円の一六日分)を、昭和四七年一二月二四日の交通事故による受傷につき、歩合給として金一七万円をそれぞれ支給した。そして、その経緯は次のとおりである。

(2) 当時の組合副委員長であつた小沢政秋及び書記次長であつた角田英昭は、原告と相談のうえ、昭和四七年一月一七日、被告会社に対し、真実は原告が組合から歩合補償一万円の支給を受けているのに、「原告は平常時には組合から役員手当とは別に組合活動による賃金減少分を補填するため組合から歩合保障手当金一万円等を支給されているけれども、公傷期間中は支給がなく生活が苦しいので何とかしてほしい。」旨虚偽の申し入れをした。被告会社は、これを信じて、歩合保障手当の補填のため原告に対し、月額一万円を歩合給として支給することとし、前記のとおり支給した。

(3) 原告の右行為は、懲戒解雇事由を定めた就業規則五〇条七号所定の「故意又は過失若しくは不正な行為により給与給付その他の利益を得、会社に重大な損害を与えたとき」に該当し、仮に金額的に重大な損失といえないとしても、同条一三号所定の「その他前各号に準ずる事由があると認めたとき」に該当する。また、労働協約上も懲戒を規定している四四条一六号所定の「職務に関連し不正不当の金品を授与し、又は要求し若しくは約束し、或いは行わせた者」、一七号所定の「業務上不正行為をした者」に該当し、仮に、職務上といえないとしても同条二一号所定の「前各号に準ずる程度の不都合な行為と認める行為のあつた者」に該当する。

(4) 原告の行為は、金銭にかかる悪質な詐欺行為であり、過去における金銭にまつわる不祥事と比較しても懲戒解雇に相当するものである。従つて、被告組合の除名処分が無効であるとしても、被告会社が就業規則所定の事由に基づいてなした解雇は有効というべきである。

2  原告の賃金請求権について

仮に、除名処分が無効であるため解雇が無効となるとしても、そのことから直ちに原告の賃金請求権が認められるものではない。

被告会社は、昭和五一年九月二日、被告組合より組合が同年八月二六日の臨時組合大会において原告を除名処分にしたので、原告を解雇するようにとの通知を受けた。しかし、被告会社としては直ちに解雇することなく、九月三日に組合に対し、除名の理由及び手続に関する資料の提出を求め、同時に被告組合と団体交渉をして、除名手続について釈明を求めた。そして、被告会社は、組合提出の資料等に基づき原告の組合除名理由の存否につき慎重に検討した結果、被告組合が本件で主張する事実の存在が判明し、また、除名手続も組合規約どおり適正になされていることを確認したので、被告会社は、ユニオン・シヨツプ協定に基づき原告を解雇したものである。

従つて、右解雇が無効であるとしても、それは被告会社の責に帰すべき事由によるものではないから、原告は、民法五三六条により被告会社に対し賃金請求権を有しない。

四  被告らの主張に対する認否

1  (一) 被告組合主張1(一)の事実は認める。

(二) (1) 同(二)(1)の事実のうち、原告が被告組合の執行委員長として主張の期間被告組合から歩合保障を受け、また、被告会社から月額一万円の割合による金員を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実は認める。

(3)(イ) 同(3)(イ)の事実のうち、公傷による欠勤中の賃金補償が、過去三か月の平均賃金によるとされていたこと、小沢らが昭和四七年一月七日、被告会社と原告の公傷による欠勤中の賃金補償について交渉した結果、被告会社から原告が六一五三円を受給したこと、その後の公傷欠勤の場合も同様、原告が被告会社から合計一七万円を受給したことは認めるが、右交渉の内容及び右金員の性格については否認する。

(ロ) 同(3)、(ロ)の主張は争う。

(三) 同(三)の主張は争う。

(四)(1) 同(四)(1)の事実のうち、被告組合が昭和五一年六月二四日に中央執行委員会を開催し、同月二九日に臨時組合大会を開催することを決定したこと、及び同委員会に現実に出席したのは五名であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、昭和五一年六月二九日に臨時組合大会を開き、査問委員会の設置を議決したことは認めるが、その余の主張は争う。

(3) 同(3)の事実のうち、査問委員会において原告に対し弁明の機会を与えたとの点は否認し、その余の事実は認める。

(4) 同(4)の事実のうち、臨時組合大会において原告を除名する旨議決したこと及び起立採決方式によつたことは認めるが、その余の主張は争う。

2(一)  被告組合主張2(一)の事実は認める。

(二)(1)(イ) 同(二)(1)(イ)の事実のうち山梨地連に対し全自交労連本部からは金一万七〇二〇円しか受給していない旨偽りの報告をし、同地連から金七三八〇円を不正受給したとの点は否認し、その余の事実は認める。

(ロ) 同(ロ)の事実のうち金五〇四〇円を不正受給したとの点は否認し、その余の事実は認める。

山梨地連から受給した金六〇〇〇円は、同大会に出席した小沢に支給されたものである。

(ハ) 同(ハ)の事実のうち、金八〇〇〇円及び金九〇〇〇円を不正受給したとの点は否認し、その余の事実は認める。なお、金九〇〇〇円については、大会後の懇親会の費用に使用したものである。

(ニ) 同(ニ)の事実のうち不正受給したとの点は否認し、その余の事実は認める。交流会費や食事代が多くかかつたので、宿泊費に加算調整したものであつて、不正受給ではない。

(2) 同(2)の主張は争う。

(3) 同(3)の(イ)ないし(リ)の各事実はいずれも否認する。

(三)  同(三)の主張は争う。

(四)  同(四)の(1)ないし(3)の主張はいずれも争う。

3  (一) 被告会社主張1(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の認否は、被告組合の「主張1、2」に対する認否と同じである。

(三)(1) 同(三)(1)の事実のうち「歩合給として」との点は否認し、その余の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち、小沢らが被告会社に対し原告の公傷時の賃金補償について交渉の申し入れをしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 同(3)(4)の主張は争う。

4  同2の事実のうち、被告会社主張の被告会社における調査、検討の経緯については不知。その余の主張は争う。

五  被告らの主張に対する原告の反論

(除名理由の不存在)

1 歩合保障の二重取りについて

原告が被告組合から受給していた金員と被告会社から受領していた同額の金員とは、その性質・内容を異にし、被告らが主張するように歩合保障の二重取りに該当しない。

被告組合が支給していた月額一万円の金員は乗務員出身の組合役員に対し一律、定額で支給され、しかも、公傷による欠勤中や休暇中の場合など本来乗務することが不可能な際にも支給されていた点で実質的に役員手当としての性格を有していた。これに対し、原告が被告会社から受給していた月額一万円は専ら原告の生活給を補てんする趣旨で被告会社と次のような合意のもと支給されていた。すなわち、<1>被告会社は原告の公傷による欠勤中は労働協約八二条を適用せず、原告に対し本人給(固定給)に更に月額一万円を加算して支給すること、<2>ただし、右一万円の加算金については、後日、被告会社が原告に代つて事故の加害者に休業補償分として請求するが、もし、加害者から支払われた金員が請求額を下廻わる場合には示談時に原告が受領すべき慰謝料等で清算すること、

以上の次第で、原告が被告会社から受領していた月額一万円の性格・内容は被告組合から支給されていた金員のそれとは異なるものである。

なお、原告は、第一回公傷分(昭和四六年一二月二九日)として被告会社から受給した分については、被告会社が原告に代つて加害者から支払を受けることによつて清算を了し、また、第二回公傷分(昭和四七年一二月二四日)については原告が示談金の受領を留保しているので未清算の状況にある。

2 地連財政問題について

原告が山梨地連から支給を受けた宿泊費、交通費等の金員は所定の大会、会議に出席する参加者全員の合意、若しくは執行委員会等関係機関の事前の承認・決定に基づいて所定の各種会合における交流会費や食費等に充当されたものであつて、原告が不正に領得したものではない。

なお、交流会費とは、各種会合の終了後に開かれる懇親会の費用とか、名所旧跡の見学の費用が多額になつた際などに会計上の操作項目として慣行的に認められていた。

3 暴力行為等その他について

被告組合が指摘する四件の暴力行為はいずれも事実無根である。このことは、組合員木川に対する暴行が全くの人違いであることからも明白である。もつとも、組合員土橋に対する件は、原告が被告会社に入社して間もない昭和四〇年四月に起つたことであるが、この件はすでに解決済である。それにこれら事件を含め、そのほか被告組合が指摘する四件は、いずれも原告の除名をあえて強行するために殊更問題としてとり上げたものであつて、原告の除名を正当化するものではない。

(除名手続の瑕疵)

1 第一次除名手続について

(一) 昭和五一年六月二四日開催の中央執行委員会及び同年六月二九日開催の臨時組合大会の各成立上の瑕疵

被告組合は、昭和五一年六月二九日臨時組合大会を開催し、査問委員会設置を議決するとともに中央執行委員五名を解任したが、組合規約一五条は組合大会を開催できる一場合として臨時組合大会は中央執行委員会が必要と認めたときに中央執行委員長が招集する旨を規定しているところ、右臨時組合大会の開催を決めたとされている同年六月二四日開催の第三四回中央執行委員会は執行委員九名のうち、三分の二の定足数に満たない五名の出席のみで開催されたことからして右中央執行委員会は組合規約に反し成立し得ないものである。

被告組合は欠席した執行委員中三名については議決権の委任を受けていた旨主張するけれども、さような事実はないし、また、過去における中央執行委員会において議決権を委任するというような慣行はなかつた。

右の次第で、臨時組合大会の開催を決定する中央執行委員会が定足数を欠き有効に成立していない以上、右執行委員会の決議に基づく臨時組合大会も同じく組合規約に違反して開催されたものとして、それぞれその成立について重大な瑕疵があり、ひいては右臨時組合大会における議決も瑕疵があり無効というべきである。

(二) 執行委員五名の解任の無効

中央執行委員五名(小沢、角田、小田切、中山及び鈴木)は既述のとおり昭和五一年六月二九日開催の臨時組合大会において組合規約一九条八号の「役員罷免」として一応解任されたのであるが、その実質は同人らが分派活動をしたことを理由とする懲罰的なものであつて、組合規約五三条三号所定の「役職解任」と解するのが実体に則しているといえるから、右解任にあたつては同規約五四条によつて査問委員会による査問手続を経由しなければならないところ、右解任に際しさような手続が履践された事実はない。

それ故、右執行委員五名の解任には組合規約による手続上重大な瑕疵があつて無効であり、それが有効であることを前提としてなされたその後の諸手続は後記のとおりいずれも無効である。

(三) 査問委員会の成立及び答申の瑕疵

昭和五一年六月二九日開催の臨時組合大会において設置された査問委員会について成立上の瑕疵があることは(一)項で指摘したとおりであるが、次の点からも重大な瑕疵がある。すなわち、査問委員会規定四条によると、査問委員会は中央執行委員全員を構成員とし、かつ、全員の出席をもつて開催の要件としている。ところが、原告の除名を答申した昭和五一年七月一〇日開催の第二回査問委員会は本来その任にあるといえる解任された中央執行委員五名の出席なしに開かれたものであるから、右査問委員会の開催はもとより、右査問委員会による査問と答申はいずれも無効である。

(四) 査問手続上の瑕疵

査問委員会規定六条は「査問委員会は会議の席上本人の弁明を聴取しなければならない」と規定しているが、原告の第一次除名を答申した昭和五一年七月一〇日開催の第二回査問委員会では席上、唯単に事実関係の調査がなされたのみで、原告の弁明を聴取しないまま閉会した。

被告組合は査問委員会で弁明の機会を付与しなかつたとしても、臨時組合大会で弁明の機会があつた以上、その瑕疵は治癒された旨主張するが、査問委員会の答申前と答申後とではその弁明が果す集団意思形成に対する影響力は著るしく相違するから、右主張は失当である。

(五) 昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会の成立上の瑕疵

原告の除名を議決した昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会の日程は同年七月一〇日開催の中央執行委員会で決められたものであるが、先に述べたとおり中央執行委員五名の解任が無効である以上、右執行委員五名は昭和五二年の改選期までその任にあつたものというべきである。従つて、これら五名の中央執行委員の欠席のもとに開かれた中央執行委員会はもとより、同委員会の決議に基づいて招集された臨時組合大会も、ともにその成立について手続上の瑕疵があつて、その議決(原告の除名)は無効である。

2 第二次除名手続について

(一) 中央執行委員会、昭和五一年八月二〇日開催の第四回査問委員会及び同年八月二六日開催の臨時組合大会の各成立上の瑕疵

既述のとおり中央執行委員五名の解任が無効である以上、右中央執行委員の出席なしになされた第二次除名処分のための中央執行委員会、査問委員会、臨時組合大会にはそれぞれその成立について手続上重大な瑕疵があることは第一次除名手続の瑕疵の各項で述べたとおりである。

(二) 査問手続上の瑕疵

第二次除名処分では除名理由として歩合保障の二重取り問題に付加して地連財政問題、暴力行為とその他の諸問題が取り上げられたが、原告は右除名理由について弁明を聴取されておらず、またその機会も与えられていない。第二次除名処分は、第一次除名処分が無効であることを仮定してなされたそれ自体独立した統制処分であつて第一次除名処分の決議で示された組合の統制意思を単に再確認するにとどまらない。特に、第二次除名処分では第一次除名処分の理由に更に一八件にのぼる処分事由が新らたに付加されているのであるから、査問委員会の席上では当然原告の弁明を聴取すべきであるのに、これをしていない第二次除名処分は無効である。

なお、臨時組合大会で弁明の機会を付与したとしその瑕疵が治癒されないことは既述したとおりである。

(三) 昭和五一年八月二六日開催の臨時組合大会の手続上の瑕疵

組合規約一八条は「大会の日程、議案その他必要な事項は大会開催期日五日前までに組合員に告知しなければならない。」と規定しているところ、昭和五一年八月二六日開催の臨時組合大会の日程の告知が組合員である原告に対しなされたのは開催日の前々日である八月二四日の午後一〇時四五分であつたから、その告知は前記組合規約に違反している。

また、右組合大会では原告が欠席したことに乗じて除名理由外で、しかも、根拠のない原告の非行と思われる事柄を詳細に述べて組合員の心証形成に不当な影響を与え、もつて、原告の除名を強行したものであるから、右のような大会運営は手続上著るしく公正さを欠くものとして原告に対する除名決議を無効とするものである。

(統制権の濫用)

原告に対する本件除名処分は、統制権の濫用であつて無効である。

昭和五一年五月ころ、被告組合の当時の小尾執行委員長、清水副委員長、望月書記次長、大屋執行委員の四名は、前執行委員長である原告らからの自分らに対する組合の指導性等につき批判され、その地位を脅かされ、保身に対する強い危機感を抱くと同時に、原告に個人的恨みもあつて、原告を組合から除名(排除)しようと考えるに至つた。そこで、小尾らは、当時噂のあつた「二重取問題」をあえて取り上げ、また、一部反共組合員と手を結んで、原告の除名を容易にすることを考え、被告組合が従来所属していた全自交共闘会議から離脱し、全自交本部に復帰した。更に、昭和五一年三月ころに一部組合幹部らが結成した同志会なる個人的会を利用して、同年五月ころより、署名活動を始め、同年七月ころまでに組合員の大多数の者を協力者とした。そして、同年六月二四日に前記第三四回中央執行委員会を開催して、ここで財政小委員会の設置組合臨時大会開催の決定をして同年七月一五日の右臨時大会で、原告の組合からの除名を強行し、更に、八月二六日の組合臨時大会で再度原告を除名することとしたものである。原告の被告組合からの除名は小尾ら一部組合幹部の保身等のため、あえて強行されたものであつて、被告組合の団結権保持のための統制権行使に藉口し、あるいはまた、その権限を濫用したものである。

六  原告の反論に対する被告組合の認否と再反論

1  原告の主張中統制権の濫用の点は否認する。その余の主張中被告組合の前記三記載の主張に反する点は争う。

2  以下、特に中央執行委員五名の解任に関する点に反論を加える。

被告組合が昭和五一年六月二九日開催の臨時組合大会で原告主張の中央執行委員五名を解任したことは原告主張のとおりであるが、右解任は実質的にも組合規約一九条八号所定の「役員の罷免」に基づいて解任したものであつて、組合規約五三条三号所定の「役職解任」に依拠したのではない。

組合規約一九条八号の「役員の罷免」と同五三条三号の「役職解任」とは趣旨、目的を異にし、前者は執行委員としての職務の能率の維持と適正な運営を目的とするのに対し、後者はいわゆる懲戒を目的としたものであつて、ある行為が両者に該当する場合もあり得るが、そのいずれを選択し、適用するかは組合大会が専権的に決定する事項である。

中央執行委員五名が解任されたのは、これら五名の者が組合役員として組合の運営に十分な職責を果さなかつたばかりか、当時、組合が重要な課題として進めてきた二回にわたる覚書破棄問題についての団体交渉に殊更理由もなく欠席して執行委員として当然果すべき任務を懈怠したからにほかならない。このようなことから、臨時組合大会で多くの代議員の賛成のもとに罷免することに決定したものであつて、同種の先例としては昭和四五年一二月一〇日の臨時組合大会で当時の委員長石田国一が小尾・清水の解雇撤回闘争に十分取り組まなかつたことを理由に罷免された事例がある。

以上の次第で、中央執行委員五名の罷免は組合規約上正当な手続に依拠してなされたものであつて、原告主張のような手続上の瑕疵はない。

第三証拠関係<省略>

理由

第一  被告組合に対する請求について

一  被告組合が自動車旅客貸切及び貨物運送を業務内容とする被告会社の従業員をもつて構成する労働組合であること、原告が被告会社の従業員として昭和四〇年三月に被告組合に加入し、以来組合員の地位にあつたこと、被告組合が昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会において原告が被告組合と被告会社から歩合保障を二重取りしたとして、それが組合規約五二条(但し、五項中四号を除くその余の四項目)に該当することを理由に原告を被告組合から除名する旨を決議し、同月一六日その旨を文書で原告に通知し、以来、原告を被告組合員として処遇しないこと、また、被告組合は右除名の際の採決方式が組合規約に違反することを仮定し、昭和五一年八月二六日開催の臨時組合大会において更に地連財政問題等新らたな処分理由一三件を加えて原告を被告組合から除名する旨再度決議し、前同様原告を組合員として取り扱わないこと。

以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  労働組合は憲法二八条による団結権保障の効果として組合の団結の維持、強化を図り、組合内部の秩序を確保するため構成員である組合員に対し合理的な範囲内で統制権を有し、そして、右統制権の行使については組合自治の観点から、できるだけ組合の自主的判断を尊重すべきであるといえるが、しかし、その行使によつて組合員の権利、利益に与える影響も無視できないものがあつて、時には統制処分の内容とその程度如何によつては組合員に対し著るしい不利益を与える結果となる場合があることを考えると、組合自治の尊重にも自ら限度があるものといわなければならない。特に、組合規約で自主的に統制事由と統制権行使にあたつての手続を規定している場合はその趣旨、目的にあわせ組合規約が果すその機能と役割に照らして、組合の統制権は右の組合規約に依拠して厳正に行使されなければならず、その行使の手続過程において組合規約上重大な瑕疵があるときは統制処分そのものは法律的に無効になるものと解するのが相当である。

三  本件において、原告が主張するところは、原告に対する被告組合の統制処分である第一次、第二次除名処分は、除名理由それ自体が不存在であり、かつ、その除名手続には重大な瑕疵があつて無効であるとする点にあるが、とりわけ、右除名手続に関する主張については看過することのできない多くの問題点を包含し、特に、第一次除名手続に関する採決方式、第一次、第二次除名処分を通じての査問委員会の委員構成、第二次除名処分にあたつての査問手続上における弁明権の保護等の諸手続に関する点は、本件除名処分の効力を左右する重要な事項であり、また、本件での一つの主要な争点を形成しているので、以下では主として右手続の効力に論点を絞つて判断する。

1  第一次除名処分の採決方式について

(一) 成立に争いのない乙第七七号証(丙第一二号証の二)によると、被告組合規約五四条は、組合員に対する統制処分は査問委員会の答甲に基づき組合大会において無記名投票により三分の二以上の賛成をもつて決定する旨規定していることが認められるところ、原告の第一次除名を決議した昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会におけるその採決が、右組合規約による無記名投票方式によらないで、起立採決方式によつてなされたことは当事者間に争いがない。

(二) 組合規約が統制処分に関する組合大会の採決方式を組合大会の決定に委ねることなく、あえて無記名投票によることとしたその趣旨は、統制処分の与える重大性にかんがみ採決における個々の代議員の自由な意思決定を確保し、もつて、統制処分の公正を期することにあるものと解される。従つて、右採決方式に関する組合規約は統制権行使の手続上いわばその根幹をなすものであつて、組合規約による正規の改正手続によらないで、右採決方式を規約による無記名投票以外の採決方式に変更することは、たとえそれが組合大会における出席代議員の全員一致の意見と決議によるとしても許されず、それによる採決は手続上重大な瑕疵があるものとして無効というべきである。

被告組合は、どのような採決方式を採用するかは組合自治の領域に属する事項であるから、これによつて組合大会の決議を無効とするものではないと主張するけれども、右主張は前記説示に照らして採用することができない。

(三) 以上のとおりとすると、昭和五一年七月一五日開催の臨時組合大会において、起立採決によつてなされた原告を除名する旨の決議は、採決方式において重大な瑕疵があり無効であるといわなければならない。

2  中央執行委員五名の解任と査問委員会の構成について

(一) 被告組合が昭和五一年六月二四日中央執行委員会を開催し、同月二九日に臨時組合大会を開催する旨決定したこと、右臨時組合大会において査問委員会設置を議決するとともに小沢、角田、小田切、中山及び鈴木の五名の中央執行委員を解任したこと。

以上の各事実は当事者間に争いがない。

(二) 被告組合規約(乙第七七号証及び丙第一二号証の二)は組合役員としての地位にある者の役職を解く場合について、一九条八号で「役員罷免」を、五三条三号で「役職解任」をそれぞれ規定している。後者の「役職解任」が統制処分に基づくことは同規約五二条ないし五四条の規定に照らして一見明白であるといえるが、一九条八号所定の「役員罷免」については単にこれを組合大会の専決事項とするのみで、如何なる場合にこれに該当するかなど、いわゆる罷免の要件等については規約上なんら規定していない。

そこで、右罷免の意義について案ずるに組合役員たる地位を解くには、組合員に対する制裁措置としての統制処分によるばかりでなく、健康その他の理由によつて役員としての任務遂行に支障がある場合や任務遂行に懈怠があるとき、その他組合役員としての適格性に問題がある場合など組合機関としての適正・円滑な任務遂行を期待しがたいときにもその必要性が肯定されることはいうまでもない。組合規約一九条八号で統制処分としての「役職解任」と区別してあえて「役員罷免」という用語を使用して、これを組合大会の専決事項としたその趣旨、目的は以上に述べた必要性に的確に即応することにあつたものと解せられる。

もつとも、右のように解したからといつて、「役職解任」と「役員罷免」は二律背反のものではなく、組合役員のある行為が一方で制裁の対象となる統制事由に該当すると同時に他方で組合役員としての適格性等の問題として把握される場合があることは否定できないところである。

(三) そこで、右五名の中央執行委員が解任されるに至つたいきさつについて検討する。

いずれも成立に争いのない甲第一〇、第一四号証、乙第六一号証、弁論の全趣旨によつて各成立を認める甲第二一号証、乙第四五号証、証人望月孝、同清水峰雄の各証言、被告組合代表者尋問の結果(第二回)、並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

(イ) 被告組合は、もともと全自交労連に加入していたが、全自交労連は昭和四九年一一月開催の第三〇回大会で運動方針をめぐる対立から事実上分裂状態になり、昭和五〇年秋には被告組合の上部団体である山梨地連を含む一二地連が全自交労連本部に対立する組織団体として、いわゆる全国連絡会議(全自交労連の統一回復をめざす全国連絡会議)を組織した。

(ロ) 原告を含めた前記五名の中央執行委員は、いずれも全国連絡会議の運動方針に賛成し、また、被告組合の幹部役員として被告組合を右運動方針に沿つて運営し、被告組合も右連絡会議に属していたが、被告組合では昭和五〇年九月に中央執行委員長が原告から小尾に交替するとともに昭和五一年四月一九日開催の第六回中央委員会で既定の運動方針に反し、これまで路線を異にしていた全自交労連本部との関係回復とその強化を組合の運動方針として採択した。

(ハ) このようなことから、被告組合内では全自交労連本部の運動方針に賛成する小尾執行委員長を中心とする現執行部役員と全国連絡会議の運営方針に賛成し、その指導のもとに組合運営をしてきた前委員長である原告を中心とする前記五名の中央執行委員とが被告組合の運動方針とその運営をめぐつてことごとに対立することとなつた。

(ニ) 被告組合は中央委員会の前記運動方針の採択と決定に沿つて組合員に対し署名運動等をするなど組合員全体の理解と意思の統一を図るための教宣活動を展開し、その一環として昭和五三年五月二三日と二四日の両日にわたつて全自交労連本部の役員を招いて、いわゆる明番公休集会を開催したが、その席上前記五名の中央執行委員はその開会に反対して異議を述べるなどしてその開会を阻止しようとした。また、前記五名の中央執行委員は、基本的路線の対立から小尾委員長のもとにおける被告組合の諸方針とその運営に反対し、組合が進めてきた被告会社との団体交渉、特に昭和五一年六月一一日と六月一七日に行われた就業時間中の労働運動に関する覚書の破棄をめぐつての二回にわたる団体交渉に欠席した。

(ホ) 被告組合は、以上(ニ)掲記の事実に基づいて、査問委員会の調査、査問、弁明聴取等をすることなく、昭和五一年六月二九日開催の臨時組合大会において代議員の緊急動議に基づいて右五名の中央執行委員を罷免する旨の決議をした。

以上の各事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(四) 以上認定のとおりとすると、五名の中央執行委員の解任は形の上では組合規約一九条八号の「役員罷免」としてなされたものといえるけれども、組合大会で非難の対象とされたのは基本的には五名の中央執行委員が、被告組合の中央委員会で組合の基本路線として採択決定した全自交労連本部との関係回復と強化の運動方針に反対して、全自交労連本部と対立関係にある全国連絡会議を積極的に支援してその運動方針に従つて行動し、もつて組合を混乱させたこと、つまり、その分派活動にあつたものと認めるのが相当である。すなわち、五名の中央執行委員が右罷免決議において非難された、その行動は、反組合活動として本質的には組合規約五二条一号所定の「組合の規約及び決議に違背した時」もしくは同条二号所定の「組合の統制を乱した時」に該当するとみるのが相当である。

もつとも、五名の中央執行委員は被告会社との団体交渉に出席すべき組合役員としての任務があるのにこれに出席しなかつた点で組合役員としての任務懈怠があつたと評価される面がないとはいえないけれども、それは、あくまで前記分派活動からの派生的なものであつて、前記役員の解任は、本質的には組合に対する統制違反としての分派活動を理由とするものとみるのが相当であるから、その処分については組合規約五二条ないし五四条による統制処分に付する手続に依拠し、査問委員会による調査等所定の手続を履践してこれをなすべきものというべきである。

すなわち、被告組合においては、統制処分は組合規約五四条によつて当該役員を査問委員会の調査と査問に付して十分その弁明を聴取したうえ、組合大会で無記名投票により三分の二以上の賛成をもつて決定するとされているところ、本件における五名の中央執行委員の罷免は前記認定のとおり査問委員会における調査、査問、弁明聴取等の手続を経ることなく、代議員の緊急動議に基づいて突如なされたものであり、しかも、弁論の全趣旨によると弁明の機会すら与えられなかつた疑いが十分あつて、これを否定すべき証拠はない。

ところで、前記のとおり統制処分が組合員の権利義務に重大な影響を持つことにかんがみれば、組合規約に明文化された懲戒手続を履践することは統制処分の効力要件と解されるところ、右五名の解任においては、組合規約上定められた諸手続が殆んど履践されていないものといわざるをえない。

以上のとおりとすると、組合規約一九条八号に依拠してなした五名の中央執行委員の解任は、組合規約の適用を誤り、所定の重要な手続の履践を欠いた違法があつて無効のものといわなければならない。

なお、被告組合は、組合の闘争方針に反して行動した組合役員に対しても組合規約一九条八号所定の「役員罷免」で処理された事例が過去にある旨主張し、被告組合代表者尋問の結果(第二回)はこれに符合するけれども、主張にかかるような処理が被告組合において慣行化し、組合規約の解釈とその運用を変えるまでに至つたものとは本件全証拠によつてもこれを認めることはできないから、右事例のような処理がかつて存在したことによつて本件における前記結論が左右されるものではない。

更にまた、仮に団体交渉不出席を任務懈怠と評価し、これを理由として組合規約一九条八号によつて役員を罷免できるとしても、その実質は統制違反にある以上、統制処分に基づく解任の場合を比肩し得る手続の公正の確保と権利利益の保護が図られなければならないものと解するのが相当であるところ、本件においてはさような配慮に基づいて罷免手続が進められた事実は本件証拠上認めることができないから、この点もまた前記結論を変えるものではない。

(五) 以上のとおりとすると、五名の中央執行委員は、昭和五二年の改選期(弁論の全趣旨によつて認める。)までその任にあつたものといえるから、原告の除名を答申した査問委員会は査問委員会規定(成立に争いのない乙第七八号証)一条、四条によつて右五名の中央執行委員をその構成員として開催されなければならないところ、原告の第一次除名を答申した昭和五一年七月一〇日開催の第二回査問委員会はもとより、第二次除名を答申した同年八月二〇日の第四回査問委員会のいずれの場合も、右五名の中央執行委員は査問委員として査問委員会の構成に関与していないことが本件証拠上明らかである。

そうだとすれば、原告に関する査問と答申については第一次、第二次除名処分を通じ査問委員会の構成上重大な瑕疵があつて無効であるといわなければならない。

ところで、前記の如き統制処分の組合員の権利義務に及ぼす影響にかんがみると組合規約第五四条による査問委員会による査問は、組合大会による除名決議の前提、かつ、効力要件であると解されるから、前記の如き査問委員会の構成上重大な瑕疵があり、その査問と答申の効力に問題が存する以上、第一次、第二次にわたる組合大会の除名決議は、この点でも無効というべきである。

被告組合は、組合大会で弁明の機会を付与すれば査問手続に関する瑕疵は治癒されるかのごとき主張をするけれども、査問委員会における査問手続は統制処分の前提、かつ、効力要件で、統制処分の公正を確保し、被処分者の権利、利益を擁護するうえで欠くことのできないものであつて、組合大会で弁明の機会を付与したとしても、これをもつて、代えることのできないものであるから、右主張は採用できない。

3  第二次除名処分の査問手続について

(一) 原告に対する第二次除名処分の除名理由が第一次除名処分の際の除名理由である歩合保障の二重取り問題に加えて地連財政問題、暴力事件など一三件にのぼる新らたな事由を付加したものであるところ、これら新らたに付加された除名理由について原告に対し査問委員会で弁明の機会を付与していないことは当事者間に争いがない。

査問委員会における被処分者の弁明権は固有の権利として保障されなければならないことからすると、前記の点は第二次除名処分にあたつて手続上看過することのできない重大な瑕疵であるといわなければならない。

(二) 被告組合は、一三件にのぼる新らたな除名理由は、主要な除名理由である歩合保障の二重取り問題に対する単なる付随的な理由にすぎず、組合員全体の原告に対する除名意思は歩合保障の二重取りを除名理由とする第一次除名処分の時点においてすでに確定的に形成されており、新らたな除名理由は除名意思の形成に影響を及ぼすものではないと主張する。

確かに、歩合保障の二重取り問題を除名理由とする昭和五一年七月一五日の臨時組合大会における原告に対する除名の採決が出席代議員六八名中賛成六五名、反対三名であつたことは成立に争いのない乙第二五号号証から明らかである。

しかし、右採決が無効であることは既述したところであつて、その趣旨は個々の代議員の自由な意思決定を保障した組合規約所定の採決方式である無記名投票によらないで起立採決の方式に基づいてこれをなしたことによるものである。換言すると、起立採決の方式によつては投票にあたつての個々の代議員の自由な意思決定を保障しがたいとした点にある。

そうだとすると、原告の除名に賛成した代議員の数が六八名中六五名に達したからといつて、それが自由な意思表明としての投票の結果といえるか、はたまた、右採決の結果をもつて被告組合が主張するように原告に対する除名意思が確定的に形成されたものと評価できるか極めて疑わしく、むしろ、これを否定するのが相当である。

それにまた、確かに歩合保障の二重取り問題が主要な論点となつていたことは否定できないけれども、新らたな除名理由である地連財政問題等も単に一、二件にとどまらず実に一三件の多数にのぼり、しかも、その内容は、金銭上の問題を含め組合員に対する暴力事件等で組合員の日常生活にとつて決して無関係な事柄とはいえないから、一三件にのぼる新らたな除名理由をもつて歩合保障の二重取り問題に対する単なる付随的な除名理由であつて、組合員の除名意思の形成になんら影響を与えるものではないとする被告組合の主張にはにわかに賛同しがたい。被告組合は、更にまた、仮に原告に対し査問委員会の席上新らたな除名理由について弁明の機会を与えたとしても、原告がその趣旨に則つて弁明しないことは十分予想されたところであるから、たとえ、弁明の機会を付与したとしても、それは無意味であり、それに、臨時組合大会で弁明する機会があつた以上、弁明に関する手続上の瑕疵は治癒された旨主張するけれども、被処分者に対する弁明権の保護は被処分者がその趣旨に則して現に弁明するか否かによつて左右されるものではないし、また、臨時組合大会において弁明する機会があつたとしても、それによつて手続上の瑕疵が治癒されないことはすでに述べたとおりであるから、右主張はいずれも採用しがたい。

(三) 以上のとおりとすると、原告に対する第二次除名処分は新らたな除名理由について原告に対し弁明の機会を付与していない点で手続上重大な瑕疵があり、この点でもまた無効であるといわなければならない。

四  以上、これまで考察してきた点を総合すると、被告組合の原告に対する第一次、第二次除名処分は、歩合保障の二重取り問題等除名事由の存否について改めて検討するまでもなく、その除名手続の履践について看過することのできない重大な瑕疵があつて無効であるといわなければならない。

第二  被告会社に対する請求について

一  被告会社が山梨県内で自動車旅客貸切並びに貨物運送を業としていること、原告が昭和三九年一二月被告会社にタクシー乗務員として期限の定めなく雇用されたこと、被告会社が被告組合との間にユニオン・シヨツプ協定(労働協約四条)を締結していること、被告会社が被告組合から除名されたとして同組合から通告のあつた原告をユニオン・シヨツプ協定に基づき昭和五一年七月二〇日付で解雇したが、その後これを取消し、再度の除名通告に基づいて同趣旨により同年九月一四日付で解雇し以後その就労を拒否してきたこと。

以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  使用者が労働組合から除名された労働者に対しユニオン・シヨツプ協定に基づく義務の履行として解雇した場合、その除名が無効のときは他に解雇の合理性を裏付ける特段の事情がない限りその解雇は無効というべきである。

被告組合からの原告の除名が無効であることはすでに検討したとおりである。被告会社は、原告の歩合保障の二重取りは懲戒事由を規定した就業規則五〇条七号所定の「故意又は過失若しくは不正な行為により給付、その他の利益を得、会社に重大な損害を与えたとき」、もしくは、同条一三号所定の「その他前各号に準ずる事由があると認めたとき」にそれぞれ該当するのでこの点からも原告に対する解雇は合理性があると主張する。

被告会社主張の右解雇がその事由において合理性があるか否かはさておき、その解雇は主張自体から明らかなとおり実質的に懲戒解雇である以上、その手続等については懲戒に関し、規定された諸手続が履践されなければならない。

ところで、被告会社と被告組合間の労働協約(乙第二八号証、丙第一二号証の一)四四条本文は「会社は組合員が左記の各号の一つに該当する行為をなし懲戒するときは懲罰委員会で協議決定する。」と規定し、同委員会の構成等につき、同協約五四条ないし五九条でこれを定めているところ、本件全証拠によるも、原告の懲戒について懲罰委員会の協議に付され同委員会で決定された事実を認めることはできない。

懲罰委員会における協議と決定は、懲戒の及ぼす従業員に対する重大な影響を考えると、懲戒の事前手続として必要不可欠な効力要件であつて、これを欠く懲戒処分は手続上重大な瑕疵があるものとして無効であると解するのが相当であるから、原告に対する、第二次解雇につき合理性があるという被告会社のこの点の主張は、解雇事由の存否について更に判断するまでもなく失当である。

そうだとすると、被告組合からの除名が無効であり、しかも、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事情の認められない本件では、被告会社の原告に対する解雇は無効であり、原告は現に被告会社の従業員たる地位にあるものといわなければならない。

三  以上のとおりとすると、原告は不就労期間中についても被告会社に対し賃金の支払を求めることができるが、しかし、被告会社は、本件解雇はユニオン・シヨツプ協定に基づく義務の履行としてこれをなしたもので、被告会社の責に帰すべき事由によるものではないから原告は民法五三六条によつて賃金請求権を有しないと抗争するので検討する。

ところで、民法五三六条にいう「債権者ノ責メニ帰スベキ事由」とは、債権者たる被告会社の故意又は過失、あるいはこれと信義則上同視できる事由をいうものと解せられるところ、確かに、被告会社の原告に対する解雇は、被告会社と被告組合間に締結されたユニオン・シヨツプ協定に基づく義務の履行としてなされたものであることは被告会社主張のとおりであるけれども、被告会社が原告を解雇せざるをえなくなつたユニオン・シヨツプ協定は、被告会社が、除名が無効である場合に被る解雇権者の責任と不利益を含め、右協定より生ずる利益、不利益の一切を比較考量のうえ、自主的判断に基づいて対組合との関係において締結したものと考えられるので、組合からの除名が不当でそれに基づく解雇が無効である場合の不利益を、その解雇がユニオン・シヨツプ協定に依拠するとの理由で、右協約の当事者とは別個独立の地位にある原告に負担させることは、事理に反するといわざるをえないし、それにまた、本件解雇は、右シヨツプ協定に基づく解雇であるとはいいながら、あくまで被告会社が使用者として本来有する解雇権の行使として、自らの判断と権限に基づいてなしたものであつて、組合からの除名が直ちに解雇という法律効果を発生させるわけでないことも考慮されなければならない。

よつて、このような諸点を勘案すると、被告会社の原告に対する解雇とそれに基づく就労拒否は、債権者である被告会社の信義則上故意もしくは過失と同視できる事由に基づくものと解するのが相当であるから債務者としての原告は、本件解雇による就労不能期間中といえども賃金請求権を失わないものというべきである。従つて、被告会社の前記主張は採用するに足りない。

そこで、以下、原告の主張に依拠してその賃金請求権について検討する。

成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、第二五号証、原告本人尋問の結果とこれによつてそれぞれ成立を認める甲第二三、第二四号証の各一ないし三、第二五ないし第二九号証を総合すると、原告が解雇無効によつて被告会社に対し請求できる賃金等(一時金及びその他の金員請求を含む。)は、その主張のとおり第一次解雇がなされた昭和五一年七月二〇日の後である同月二五日から平均賃金一五万六〇三三円を基礎としてその後の賃金、一時金協定等による賃金上昇等に基づき、未払賃金等を算定するとき、その総額は金五五七万八六四八円であり、そして、昭和五四年一月当時の平均賃金は毎月二九日を支払期日としてその額は金一七万三二三三円であると認められるので、原告の賃金等の請求は全部正当として是認すべきものである。

第三  むすび

以上の次第で、原告は被告組合の組合員であり、かつ、被告会社の従業員としての地位にあるものというべきであるから、これを争う被告らに対しそれぞれその旨地位の確認を求め、あわせて被告会社に対し未払賃金等の支払を求める原告の各請求はいずれも正当である。

よつて、原告の各請求を認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神田正夫 田村洋三 土居葉子)

(別紙省略)

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